AppleがQualcomm脱却を目指している裏にはQualcommの驚異的な特許戦略があるとの指摘
by Nathan Rupert
Appleは、Intelのスマートフォン向けモデム事業を買収するなどして自社製チップの生産体制に力を入れており、これにはQualcomm製チップへの依存度を下げてQualcommの特許戦略から抜け出すという狙いがあるといわれています。Appleさえ恐れるようなQualcommの驚異的なマージン率とそれを可能とする戦略について、投資家のエヴァン・ジマーマン氏が解説しました。
The Secret Behind Qualcomm's Margins? Patents
https://blog.withedge.com/p/the-secret-behind-qualcomms-margins
ジマーマン氏によると、Qualcommと他の企業との大きな違いは、通常は別々の部署であるライセンシング部門と製品部門を分けていない点にあるとのこと。
一般的な企業の場合、ライセンシング部門は非競争的な製品に特許をライセンスします。中でも、研究開発を通じて独自のIPを作り出すことができるArmのような一握りの企業は、特許取得を主軸としたビジネスモデルを構築しており、これによりソフトウェア企業を上回る利益率を生み出しています。
特許で高い利益を得るというとパテントトロールを思い浮かべる人がいるかもしれませんが、Armのような企業は自ら新しいものを生み出しているという点で、他社を訴えることを目的に特許を取得したり買いあさったりするパテントトロールとはまったく別物です。
製品とライセンスを分けて扱うモデルとは対照的に、Qualcommはチップ事業と特許ライセンシング事業を統合しています。これは、Appleのような企業がQualcommのSnapdragonを買うには、特許ライセンスにもサインしなければならないことを意味しています。
これについてジマーマン氏は「Qualcommは、ほとんどの企業が2つに分けている収益源を『二度漬け(double-dip)』しているのです」と説明しました。
このモデルの成果はQualcommの業績に表れています。Qualcommの(PDFファイル)年次報告書によると、ライセンシング部門であるQTL(Qualcomm Technology Licensing)の2023年の売上高53億ドル(約7715億円)のうち利益は36億ドル(約5240億円)で、利益率は68%に達したとのこと。これはQualcomm全体の売上高の15.9%に過ぎませんが、純利益の49.3%を占めています。
Qualcommの2023年の利益率は前年比で低下していますが、それでも全体で29%を超える利益率を達成しました。業界平均の22.74%を大きく超えたこの数字についてジマーマン氏は、「非常に競争の激しいこの業界では素晴らしい業績で、金融街の投資家たちからも一目置かれています」と述べています。
Qualcommは製品ごとではなく事業全体で交渉を行っているため、ライセンスは非常に高価です。例えば、Appleは個別の機種ではなくiPhone全体に対して支払いを行っているとのこと。
また、QTLは相手がQCT(Qualcomm CDMA Technologies)のチップを使っていなくても標準必須特許のライセンス料を取ることができるほか、特許侵害訴訟でAppleと2年にわたる泥仕合を展開し、最終的に多額の和解金を支払わせることに成功したこともあります。
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Qualcommがこのような戦略をとることができるのは、高い独自性という武器があるからです。例えば、ArmはRISC-Vのようなオープンソースのアーキテクチャと競合しなければなりませんが、Qualcommに取って代わることができる企業や団体はありません。
ジマーマン氏によると、Qualcommの強みにはテスト要件の厳しさが関係しているとのこと。モデムの試験には、世界各地で何十もの携帯電話キャリアのセルタワーを使わなければなりませんが、これは多額のコストと時間がかかる複雑な工程です。
ジマーマン氏はQualcommの戦略について、「Qualcommのライセンスビジネスは業界最高クラスで、多くの企業の手本となるものです。そこには、真に必要とされる企業が知的財産をどのように駆使してビジネスを強化できるのかという教訓があります。ただし、Qualcommのように特許を使うには条件があります。それは、同じ戦略を取る企業からの訴訟に十分に備え、誰も追いつけないほど技術的にリードしていなければならないということです」と話しました。
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